「名前と顔が一致しない」のは、記憶力のせいではありません
名前だけが極端に覚えにくいのには理由があります。初対面の30秒でできること、忘れたあとの立て直し方、名刺の裏に書く3つ、オンライン会議での対処まで。
名前と顔を結ぶ工夫
この記事で、先に押さえる3つのこと
- 1
会った文脈を添える
- 2
特徴を決めつけない
- 3
次の接点で一度見返す
新しく会った一人に、会った場所と次に話せる話題を一行だけ添えます。
会った瞬間に顔は分かるのに、名前が出てこない。話した内容も、どこで会ったかも思い出せる。名前だけが出てこない。
これは記憶力の個人差ではなく、名前という情報の性質によるものです。
名前だけが、極端に覚えにくい
顔は形です。輪郭、目の距離、眼鏡、髪型。すべて見えるところにあります。 職業も覚えやすい。「工務店の人」と覚えておけば、現場の話や見積の話が芋づるで出てきます。
名前は違います。「田中」という音は、その人のどこにも書かれていません。 顔にも、話した内容にも、会った場所にもつながっていない。手がかりの無い情報は、 頭の中にあっても取り出せません。
心理学ではこれを「ベイカー・ベイカー・パラドックス」と呼びます。 同じ「ベイカー」でも、職業のパン屋(baker)は覚えられるのに、名字(Baker)は忘れる。 情報としては同じ音なのに、つながっている先が違うだけで、思い出せるかどうかが変わります。
覚えられる人数には、そもそも上限がある
安定して関係を保てる相手の数には限りがある、という説があります(150人前後、いわゆるダンバー数)。 数字そのものより、上限が存在するという点が大事です。
- 名刺交換は年に100枚を超える
- そのうち再会するのは2割ほど
- 再会は数か月後で、そのあいだに別の200人と会っている
覚えていられないのは当然で、そこを鍛える話ではありません。
初対面の30秒でできること
それでも、少しは増やせます。会った直後の30秒にしかできないことがあるからです。
| やること | なぜ効くか |
|---|---|
| その場で1回、声に出して呼ぶ | 「田中さんは、いつからこちらに?」。音が自分の口から出ると、聞いただけより残ります |
| 顔以外の手がかりに結ぶ | 会社名・出身地・持ち物。名前と何かをつなぐと、取り出し口が増えます |
| 別れぎわにもう一度呼ぶ | 「田中さん、今日はありがとうございました」。最初と最後の2回で、中間より残ります |
語呂合わせや連想は、作るのに時間がかかるわりに、あとで連想のほうを忘れます。 手間の少ない3つだけに絞るのが続けるコツです。
名刺の裏に書くのは、3つでいい
日本のビジネスでは、名刺が唯一その場で手に入る手がかりです。 ただし、そこに書くべきは会社の情報ではありません(それは表に印刷されています)。
どこで 「◯◯展示会のブース」「△△さんの紹介」
見た目 「眼鏡・声が低い」など、次に会ったとき顔と結べるもの
ひとこと 「新工場の話」「山形出身」など、次の会話の入り口
この3つが、次に会ったときの30秒で使うもののすべてです。 その場で書けなければ、帰りの電車で構いません。ただし当日中に書く。 翌日になると、20人ぶんが混ざります。
オンラインで会った相手は、もっと消えやすい
画面越しに会った相手は、名刺も交換せず、身長も声の大きさも分からないまま終わります。 残るのは表示名だけで、それも「Tanaka」だったり、社名だけだったりします。
- 会議中に、表示名をそのまま書き写しておく(あとで漢字が分からなくなる)
- 誰が何を言ったかを、名前つきで1行だけ残す
- 顔を思い出せる要素(背景・話し方)を、ひとことだけ添える
対面より意識して残さないと、次に会ったときに「初めまして」から始めてしまいます。
忘れたあとの、立て直しかた
もっと大事なのはこちらです。忘れることは前提なので、忘れたあとどうするかを決めておきます。
名前を呼ばずに会話を始める → 名刺入れ・スマホの記録を見る → それでも出なければ聞く
聞くときは、言い訳を足さないほうがきれいに済みます。 「すみません、お名前をもう一度うかがってもいいですか」で十分です。
やってはいけないのは、分からないまま会話を続けること。 そのまま二度目、三度目と会ってしまうと、聞くのはさらに難しくなり、最後は避けるようになります。
呼び方の事故も、同じくらい起きます。
| 事故 | 避け方 |
|---|---|
| 同姓が2人いる | 会社名か下の名前まで記録しておく。「田中さん」で全員が振り向く場に出る前に |
| 読み方が違う | 「はやし」か「りん」か。一度聞いたらその場で残す。次は聞けません |
| 役職が変わっている | 肩書きで呼ぶなら、最後に会った日付とセットで持つ |
会う前に見る、という順番に変える
思い出す作業を、会っている最中にやろうとするから難しいのです。 会う前に見ておけば、思い出す必要はありません。
- 予定に入っている人の名前を、前日か直前に見る
- 顔写真を1枚だけ置いておく
- 前回なにを話したかを、3行だけ読む
この3つがあれば、会った瞬間の「誰だっけ」は起きません。 会う人が増えるほど、覚える工夫より、見る手順のほうが効きます。
覚えるのをやめて、置いておく
名前を覚えるのが得意な人は確かにいます。ただ、その人たちも100人を超えたあたりから、 何らかの形で外に置いています。手帳、名刺の裏、スマホのメモ。
上限のあるものを鍛え続けるより、上限のない場所に置くほうが早い。 覚えていることが偉いのではなく、相手が「覚えていてもらえた」と感じることに意味があるのですから、 どうやって思い出したかは、誰も気にしません。
よくある質問
なぜ顔は覚えているのに名前だけ出てこないのですか?
顔は形として覚えられますが、名前は意味のない音の並びだからです。「あの人は眼鏡をかけている」は思い出す手がかりが顔そのものにありますが、「田中さん」という音は、顔のどこにも書かれていません。手がかりが無いものは、覚えていても取り出せません。
名前を忘れたまま会ってしまったときは、どうすればいいですか?
相手の名前を呼ばずに会話を始め、その間に名刺や記録を見るか、同席者との会話から拾います。取り繕うより、早い段階で「お名前をもう一度うかがってもいいですか」と言うほうが傷は浅く済みます。二度目、三度目に持ち越すほうが、はるかに気まずくなります。
覚える工夫と、記録しておくのはどちらが先ですか?
記録が先です。工夫は覚えられる人数を少し増やすだけですが、記録は上限をなくします。会う人が年に数十人を超えたところから、工夫だけでは追いつきません。
この記事を書いている人が作っています
覚えておく係を、外に持つ。
会ったあと話すだけで、覚えておくことと約束に自動で分かれます。次に会う直前に開けば、その人が1画面で戻ってきます。iPhone と Web。
10人まで。書き出しと削除は、どの段でもできます。